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日本酒を飲んで何を書けばいいのか

目次

日本酒を書く

「日本酒を書く」、「日本酒を表現する」というのは、どのような作業でしょうか。

杜氏さんや田んぼを紹介することでしょうか。
それともグルメリポーターのように味を表現することでしょうか。

日本酒の雑誌を見てみると、味わいだけでなく、様々な情報が記載されています。

含まれている味の成分を言い当てるだけが「表現」ではない

とはいえ、何をすれば「日本酒を書く」ことになるかが理論化されていないのが現状です。

ということで今回は、「日本酒を書く」の中身を考えてみます。
ここでは、絵画や音楽などのいわゆる芸術作品について語る、「芸術批評」を参考にしてみます。

「日本酒を書く」の中身?
(キャロル)

記述する Description
分類する Classification
文脈づける Contextualization
解明する Elucidation
解釈する Interpretation
分析する Analysis
価値づける Evaluation

芸術批評に関する基礎文献
批評について: 芸術批評の哲学』ノエル・キャロル, (2009; 2017訳)
『美術を書く』シルヴァン・バーネット(2014訳)

キャロルバーネット
導入
記述
分類記述
文脈づけ
解明解釈
解釈
分析分析
— 個人的報告
価値づけ評価

①記述する

「記述」は日本酒を書くことの基本であり、この記述が十分でないと、どの酒のどのポイントについて話をしているかがよくわからなくなってしまう。

基本的には「個人の見方、感想、主張」に左右されない項目の説明を行う。
→ 味わいや香りなどの感覚の記述は、「解釈」「分析」

記述:対象の日本酒が「何なのか」を伝える基本作業

  • 蔵、地域、地下水などの説明
  • 酒造りの技法
  • ラベル、価格等
  • 味の概説、特徴の指摘
  • 明らかな欠点の指摘

②分類する

その酒が分類されるカテゴリーを示す。
特定名称分類だけでなく、甘口・辛口なども分類である

カテゴリーは様々で、新しい分類を作っても良い。

分類:その日本酒のカテゴリーや位置づけを示す

  • 特定名称分類
  • 甘口・辛口、「4タイプ分類」(SSI)
  • Flower | Fruit |Rice | Grain | Water (Sakeflight)
  • 食前酒、食中酒、デザート酒
  • 夏酒、燗向き…
  • 香り系、味吟醸…
  • 土佐酒、女性杜氏…
  • 千円台、贈答品、「外国人向け」…

ジャンルや位置づけを示すために
タテの関係:時代・年代ごとの日本酒の流行、時代の流れ(通時的変化)
ヨコの関係:酒販店に並んでいる他の日本酒との違い(共時的差異)

③文脈づける

内的批評 internal criticism: ある日本酒それ自体を記述する

外的批評 external criticism: ある日本酒を取り巻く文脈を記述する

ここまで紹介した記述と分類は、ある日本酒そのものについて書く。
「文脈づけ」で書くのは、その日本酒の外側の環境を書く。
※ 前段の「分類」は、目の前のお酒がどのようなタイプか、あるいはどういうジャンルかを示す、内的な記述。

文脈づけ:その日本酒を取り巻く環境、地理、歴史、制度、社会文脈などの説明

  • 新潟の気候と酒質、瀬戸内の漁業と酒質、気温と酒造の関連…
  • どぶろくの地理的特性、歴史的文脈、制度と社会の文脈…
  • 9号酵母の歴史、花酵母の発展状況…
  • ヴィンテージの天候、できばえ(特にワイン)

ただ文脈を説明するだけではなく、
・そのお酒を文脈に位置づけることによって、造り手の意図や目的を明らかにする
・造り手が直面している選択の論理を明らかにする
・造り手が問題、課題にどう対応したかを代弁する

=価値づけの根拠となる

④解明

芸術作品の持つ慣習的記号 conventional symbols に意味を与える作業
体系化された記号の意味を明らかにする作業(寓意画など)
日本酒では少し難しい。ラベルを解明することは可能)

寓意の典型
ロウソク…命は浪費される
割れた卵…失われたものは取り返しがつかない
腐った果物…若い時間は限りがある

Frans Wouters – Allegory of taste |フランス・ウテルス 「味覚の寓意」

日本酒の味・香りを「解明」する

  • 熟成の度合い
  • 生香、生ヒネ香
  • 吟醸香
  • 山田錦、五百万石

ある香りが、あるジャンルの記号になる
(例:酒造組合中央会の利き酒選手権)

カクテルは記号が豊富
(例)ブラッディマリーの赤色、マルガリータのスノースタイル、シンガポールスリングのチェリー…

⑤解釈と分析

ノエル・キャロルの「分析」

分析…芸術作品がどのように機能しているかを説明する作業

解釈…作品の(暗黙的な)意味や意義を考察する
解釈は分析の中の最も目立つ作業だが、分析のすべてではない

解釈するようなものではないもの (beneath interpretation)

ある種の芸術は、純粋に装飾的である。…何かを伝達しようとするものではないから、解釈が扱うべきところは何も残されていない
だが、そうした作品を解釈することに意味がないとはいえ、批評家は依然としてそうした作品を分析しうる。その作品の色、テクスチャー、パターンは、心地よくゆったりした雰囲気をいかにして作り上げているのか。それらはわたしたちの目をどのように誘い、どのように惹きつけ、どのように楽しませているのか。こうした点を、批評家は説明することができるのだ。たとえその作品に、意味や意義が――解釈の対象となりうるような広義の意味すらも――まったくないとしても、その作品には依然として要点や目的がある。分析の任務は、そのような要点、目的が作品の構成部分によっていかにして実現されているのか、を説明することである。

p.117
https://www.metmuseum.org/art/collection/search/13889

美味しさを表現する ―どう書くか―

ここまでで、日本酒を書くときに「何を書くべきか」が一応見えてきたと思います。

この節では、日本酒の味の解釈・分析として、感じた味をどう語るべきかを考えていきます。

ゴールドマンによる美的性質の分類

美的性質の分類

全体的な価値を示す
特定的な価値を示す
形式を示す
気分を表現する
感情の喚起
動きと振る舞い
高次の知覚的性質

「美的性質」を網羅的に論じた文献
Aesthetic Value, Goldman (1995)

General-value property | 全体的な美的価値を特定する性質
美しさ、醜さ、偉大な、美味しい

More specific-value property | より特定的な価値を示す性質
優美な、エレガントな、やわらかい、かるい、すっきりした

Form property | 形式を指す性質
バランスが取れている、統一されている、調和している

expressive property | 気分を表現する性質
悲しい、楽しい、落ち着いている

KAORIUM for Sake

Evocation of feeling | 感情の喚起
力強い、気持ちをかきたてる、愉快な、退屈な、ワクワクする

Dynamic or behavioral property | 動きと振る舞いに関する性質
ゆったりした、弾むような、浮き上がるような、広がる、残る、立つ、現れる

Higher-order perceptual property | 高次の知覚的性質
鮮やかな、鈍い、落ち着いた、円熟した、頑固そうな

Representational property | 再現の性質
迫真的な、ゆがんだ、現実的な

発見されていない美的性質もある

査読コメント

時間的性質を解明することが、美的性質をどのように保証するのかがよくわからない

回答

時間的性質そのものは美的質ではないが、時間的性質を導入すると、
リズム、テンポ、シーケンス、メリハリ、抑揚、ビート、サイクル、沈黙
(空間との関連で)バランス、ストラクチャー

といった、これまで導入されていない美的質を導入して味や香りを説明することができる

まとめ

「日本酒を書く」の中身

記述する Description:蔵、ラベル、価格など
分類する Classification:フルーティ、○○系、東北の避けなど
文脈づける Contextualization:環境、地理、歴史的背景
△解明する Elucidation:記号の解明…造りを示唆する吟醸香、老香など?
△△解釈する Interpretation:ちょっと不明
分析する Analysis
価値づける Evaluation

美的性質の分類分析するの中身)

全体的な価値を示す
特定的な価値を示す
形式を示す
気分を表現する
感情の喚起
動きと振る舞い
高次の知覚的性質

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