※文法って何?なんのためにこんな理論が必要なの?と思ってしまう人は、まず「文法とはなにか」を読んでください。
FDGの概要
機能談話文法(Functional Discourse Grammar, FDG)は、類型論に基づく構造-機能的 structural-functional な言語理論です。FDGは心理学的な妥当性を得るためにトップダウンの構成とし、語用論的妥当性を得るために談話行為を分析の基本単位とします。FDG自体は厳密には文法モデルですが、概念的構成要素、文脈的構成要素、出力的構成要素と相互作用するように設計されており、より広い言語的相互作用 verbal interactionの理論との互換性を高めています。
FDGのモデル
私達の会話は、概念の無機質な翻訳ではありません。コミュニケーションの相手がいて、自分の意図があって、それをどうやって伝えるか、誤解のないようにとか、説得したいとか、柔らかく言いたいとか、そういった意図を伝えるための工夫で溢れています。その工夫って、どういうふうに生み出されるの?というのが、FDGの根本的な問いです。
FDGは、言語相互作用、つまり「私達の会話のやり取りのなかで言葉がどのように生み出されるか」を説明するための文法です。もっというと、談話のなかで「その言い回しがどうやって(選択され)生み出されたか」を説明します。
機能談話文法を理解するには、基本的なモデル図を理解する必要があります。
この最初の段階でつまずくと全く意味不明になりますので、一つ一つの用語を確認しながら、モデル図を理解しましょう。FDGは言語的相互作用の全体を、3つの部門のつながりでモデル化します。
概念部 Conceptual Component
出力部 Output Component
文脈部Contextual Component
この3つの要素は文法部ではなく、文法部Grammatical Componentにおいて、具体的には「定式化 Formulation」と「符号化Encoding」という操作によって相互作用します。(下図参照)
FDGは、定式化と符号化の両方が言語固有であると(どの言語にも普遍的というわけではないと)仮定しています。
つまり、語用論的(どう言うか)、意味論的(何を意味するか)、形態統語的(どういう語順、語形か)、音韻論的カテゴリーは、経験的研究によってその普遍性が証明されるまでは、普遍的なものではないとしています。

文法部 Grammatical Componentはややこしいので、その周りにあるコンポーネント、部門を簡単に見ていきましょう。
これらの部門が文法部を介して相互作用することによって、「ちょっと優しく言いたい」などという談話の意図が達成されることになります。
図の一番上、概念部 Conceptual Component は、
①その場の発話イベントに関するコミュニケーション上の意図を展開し、
②関連する言語外のイベントの概念化をおこなう
という2つの役割を担っています。
平たく言えば、①は「どう言うか/言い方」、②は「何を言いたいか/何が起きたのか」ということになります。
このイメージが、つぎの文法部によって実際のコトバになります。
ということで、概念部は、つぎの文法部の原動力となります。
具体例を見てみましょう。
成績が悪い生徒がいて、教師がそれを両親に伝える場面で、教師は両親に与えるショックを緩和したいという意図を持つとします。
この意図は、「 試験は赤点でした」でなく「試験は赤点だったようです」と言うことで実現されます。
ここでは、まず概念部の役割②、発話状況に関わる情報の中で、発話の言語形式に関わる情報(e.g. 生徒が赤点を取ったこと)が概念化されています。
そして①が発動し、話し手の意図が発話の言語形式に影響を与えています。
図の一番下、出力部 Output Componentでは、
文法部によって提供された情報に基づいて音声表現または表記を生成します。
人間に知覚可能な形式に変換するということです。
文法部をコンピュータだとすると、文法部で演算されたデジタル情報(カテゴリー、対立軸など、※後述)を人間が理解できるアナログ(連続可変)形式に変換する、といえます。
図の右に置かれている文脈部 Contextual Component には、先行する談話の内容と形式、発話イベントが行われる実際の知覚可能な環境、および参加者間の社会的関係の記述が含まれます。
つまり、その談話が行われている文脈や状況などです。
例えば、ある人を「彼」と呼ぶことは、その人が男性だから、という社会的関係の反映でしょう。
この文脈に関する情報は、呼び方などの「語の選択」だけでなく、叙述の連鎖、再帰性、受身など、多くの文法的なプロセスに関係します。
FDGの構造に続きます。