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特定目的コーパスを用いた言語教育における重点指導語彙の選定:飲食系日本語教育におけるレシピコーパスの活用

This topic is presented at Asia Future Conference 2022 and ことば工学研究会

Hiroki Fxyma
Tainan University of Technology

目次

背景とか

汎用言語教育と目的別言語教育

言語教育は、その目的によって

汎用的な言語教育(LGP)特定の目的のために行われる言語教育(LSP)に大別できる。

特定の目的のための英語教育(ESP)はWiddowson(1983)により提唱され、研究者ごとに様々な定義や適用範囲があるものの、ジャンル、場面、活動ごとに求められる言語能力を習得するという手法は、コミュニケーションが多様化する現代の言語教育の大きな研究課題であり続けている。

Robinson[1]は、ESPゴール志向であり、ニーズ分析に基づいて実施されるものであるとした。
類似概念として職業目的の言語教育(LOP)やアカデミック目的の言語教育(LAP、英語教育はEAP)があり、LAPは科学や工学などの専攻、専門別の言語教育を行うというものである。EAPがESPの一部に含まれるかということについては議論があったが、ESPの特性はDudley-Evansによって以下のように定義されている。

[1] Robinson, ESP today.

ESPの絶対的特性

1. ESPは学習者の特定のニーズを満たすために定義される
2. ESPは、その分野の基本的な方法論と活動を利用する。
3. ESPは、文法、語彙、音域、学習スキル、談話、ジャンルの観点から、これらの活動に適した言語を中心としたものである。

ESPの可変的特性

1. ESPは、特定の学問分野に関連するものであったり、特定の学問分野のために設計されたものであったりする。
2. ESPは、特定の教育状況において、一般英語とは異なる方法論を使用することがある。
3. ESPは、高等教育機関や専門職の成人学習者を対象として設計されることが多い。
しかし、中等教育レベルの学習者を対象とすることもある。
4. ESPは、一般的に中級または上級の学生を対象としている。

ほとんどのESPコースは、言語システムに関する基本的な知識を前提とする。

 このように、特定の目的に何を含むかについての解釈は様々だが、例えば職種であれば一般ビジネス、客室乗務員、軍人、大学生、外交官、レストランスタッフ、介護従事者などが想定され、また趣味や実用目的であればスポーツ観戦、ゲーム、アニメ鑑賞、漫画や文学作品の鑑賞などが想定される。

指導背景
– 生活科学部 餐飲系
– 初級日本語 2-3h/week
– 目標:次年次の日本インターン

Key Question

(餐飲系の学生に、特定目的のための日本語教育として)どんな語彙を教えればいいのか

日本語能力検定(JLPT)

LevelRequired vocabularyLinguistic competence
N5800~The ability to understand some basic Japanese.
N41500~The ability to understand basic Japanese.
N34500 words~The ability to understand Japanese used in everyday situations to a certain degree.
N26000 words~The ability to understand Japanese used in everyday situations, and in a variety of circumstances to a certain degree.
N110000words~The ability to understand Japanese used in a variety of circumstances.

本研究のねらい

領域別コーパスを用いて、ビジネス日本語教育のための重点的指導語彙を特定する。

第二言語で言えますか?

https://englishgrammarpage.com/

汎用言語教育ではこれらの語をカバーできない

本研究のねらい

(1)一般的な日本語教材と、食品系で本当に必要な言葉のギャップを明らかにする

(2) 領域別コーパスを用いた、ビジネス日本語教育のための重要語彙を特定する


飲食に関係する日本語教育では,いわゆるレストランサービスの接客系日本語教育と,調理に関係する技術系日本語の教育の両面が求められる.
接客系日本語教育は敬語や定型的な接客の言い回しを,日常の会話と区別して習得することが目標とされる.
したがって初級の会話能力は前提条件であり,中級以上の日本語運用能力をもつ学習者が,場面に応じた言い回しをすることが目標である。

一方で調理に関する技術的な日本語は,定型句などではなく,食材の名前や,「焼く,煮る」などのいわゆる調理動詞を修得することが主目標となる.筆者の所属では,語学科目の開講数が少ないため,初級日本語のクラスにおいて,基本文法を習得させつつ,語彙知識として調理に関する語を導入することを目標としている.

重点指導語彙の選択

Datasets

Datasets: CookPad datasets

Contents: 172万品目のレシピとそのレシピを使ったメニュー
Size: 5.5 GB

*本データセットは、国立情報学研究所を通じてクックパッド株式会社から研究者に提供されたものです。

Token (total number of extracted words)10,033,667
Type (different word count)56,161
Sentences (total number of sentences)779,088
paragraphs (number of recipe posts)585,763
 Table 1  Details of the corpus

Table. 2 Top 10 frequent words by part of speech

名詞
nouns
形容動詞
Adjectivals
動詞
verbs
形容詞
Adjectives
副詞
Adverbs
45229簡単93137作る59626美味しい98413さっぱり15419
野菜24363ヘルシー15441食べる57254甘い18344とっても15327
レシピ21925大好き11076使う42211いい10801ちょっと12129
ご飯21006好き8689入れる21466よい8866どうぞ11760
一品16535手軽8556焼く18932良い7869たっぷり11663
料理16589シンプル8354出来る18576安い4795いつも8583
サラダ16058いかが4340作れる14582香ばしい46507921
弁当15411濃厚4110合う12873優しい4542時間6949
パン14322苦手3797混ぜる12431辛い3524ぴったり6946
ケーキ13975普通3797入る11414暑い3334あっさり6360

Level structure of the corpus

一般コーパスと比較して、レシピコーパスの特徴は何か?

レベル構成の特徴的なポイントを集中的に教える必要がある

本研究では、語彙の難易度を判断するために、「日本語教育語彙表」のレベル分類を利用する
*Sunakawa, Yuriko, Lee, Jae-ho, and Takahara, Mari (2012) The Construction of a Database to Support the Compilation of Japanese Learners Dictionaries, Acta Linguistica Asiatica 2(2), pp.97-115 [PDF]

Table 3. Comparing the structure of the Recipe Corpus and Japanese Educational Word List(JEWL).

レシピコーパス全体としては、日本語教育語彙リストと比較して、初級から上級までバランスよく分布している。

形容詞は独特のレベル構成になっている。

重点指導語彙の選定

日本語初級クラスで教える語彙を選ぶために、コーパスの出現頻度を100語ごとに分割してレベルを分析

501位~2000位の単語

初級前半から中級後半にむけて頻度が増え、上級になると登場する語が少なくなる。
= 一般コーパス(日本語教育語彙表)と同じ傾向

101~200位までの単語

初級レベルの単語はむしろ少なく、中級レベルの単語が多い
= レシピコーパスでは、頻出単語(上位200単語)には中級・上級の単語がかなり含まれている。

1位から500位までのハイレベルな単語
一般的な初級日本語には含まれない(レベルが高いため)。
しかし、飲食系の日本語では顕著な頻度で使われる。
=重点指導語

Results

1-100位の中上級語

名詞
食,鍋,レンジ,香り,風味,使用,おかず,生地,大根,豆腐,パスタメニュー,味付け,栄養,ソースレシピアレンジ,材料,我が家,定番

動詞
つまむ,焼く混ぜる,入る,炒める煮る,加える

形容詞,副詞
さっぱり たっぷりぴったりあっさりしっとり,ヘルシー,手軽,シンプル

  • 鍋や電子レンジなどの調理器具、大根や豆腐などの食材、パスタやメニューなどのカタカナ語が含まれる
  • 動詞は、ほとんどが調理動詞
  • 「焼く」と「炒める」など、同義語もあるので、区別するためには語彙の質的知識が必要
  • 形容詞と副詞 オノマトペ(音の象徴)が特徴的。語種はすべて「XッYリ」型。

101-200位の中上級語

Nouns 名詞
具,皮,ねぎ,にんにく,納豆,ヨーグルト,生クリーム,
好み,手間,手,食欲,相性,ボリューム,カロリー,感じ,
甘み,酸味,季節,煮物,フライパン,丼,菜
酢,油,調味料,マヨネーズ,クリーム,ドレッシング,
和風,中華,朝食,冷凍,市販,今回,話題,満点,最高,試し,ダイエット,

Verbs 動詞
もつ,つける揚げる巻く和(あ)える,残る,余る

Adjectives 形容詞,副詞
しっかり,ほんのり,ふわふわ,ふんわり,香ばしい 苦手,普通,濃厚,いかが

  • 名詞:一般的に食材や調理に関係するもの。
  • カタカナ語が多い
  • 酢、油、マヨネーズなどの調味料
  • 甘み、酸味などの味覚名詞も見られる
  • 動詞:調理に関する動詞
  • 形容詞:オノマトペ、フレーバー

Mid & High level words in 201-300
201-300位の「中上級語」

名詞
玉,旬,鶏,梅,気,豚,豆,鶏肉,本格,ベーコン,白菜,豆乳,オイル,デザート,オーブン,グラタン,チキン,好評,組み合わせ,代わり,ポイント,分量,ランチ,手作り,失敗,変身,アップ,是非,保存,満足

動詞
たまる,ゆでる煮込む蒸す効く,飽きる,喜ぶ冷やす冷める仕上げる仕上がる,試す,出来上がる

形容詞,副詞
もちろん,そのまま,さっと,美味,甘辛い,柔らかい

  • レシピを理解するために必要な言葉
  • 動詞:食べる人の反応、料理の盛り付けをする動詞

201-300位の「中上級語」

名詞
素,量,葉,もち,ごま,基本,圧力,ほうれん草,彩り,控えめ,勧め,最適,チャーハン,ピーマン,シチュー,ツナ,食材,調理,完成,手抜き,プラス,ゼリー,コロッケ,前,中
動詞
のく,やる,乗せる,炊く添える炊き込む,合わせる
形容詞,副詞
かなり,そう,こってり,是非,本当に,結構,豪華,まろやか,すごい

401-500位の「中上級語」

名詞
麺,レタス,抹茶,外,感,繊維,アクセント,バージョン,甘味,味わい,残り物,抜群,人気,絶品,電子,家庭,常備,消費,感謝,利用,出来上がり,時期,短時間

動詞
つる,なす,さる,よる,頂く,漬ける,包む,召し上がる

形容詞,副詞
とにかく,とろとろ,絶妙,生,面倒,素朴,濃い

Conclusion: What words should be taught?
どの範囲の語彙を重点的に指導すべきか

頻度順 100 語ごとの分析により,頻度 1-200 位の語彙と 201 位から 400 位までの語彙において,異なる傾向が⾒られた.

上位200語の傾向

名詞:食材、調味料、料理カテゴリーなど、料理やレシピに直接関係する必須ワードが中心。

200〜400位の傾向

レシピを正しく理解し、適切な調理をするために必要な言葉
eg. 焼くvs 炒める(使い分け、使い切るための、質的な語の知識)

400位以降

レシピコーパスの特殊性が低下し,重点的に指導すべき語彙は少数しか⾒られなかった

Nouns

名詞のカテゴリー

食材名

食品名

食品カテゴリー

調理手順・計画

レシピの対象・特徴など

この分類では,上位 300 語までは⾷材名が頻出した。
⼀⽅で 301 位以降は「⾷材名」は低い割合となっている。
401 位から 500 位の群ではレタス抹茶のみであった。

Verbs

主な調理動詞は200語レベルに出現

1-100 | 焼く混ぜる,入る,炒める煮る
101-200 |もつ,つける揚げる巻く和(あ)える,残る,余る

以降、400語レベルまで 「炊き込む」「添える」などの複合動詞や調理補助動詞が出現

Adjectives

上位200語の形容詞・副詞は、食感や味の印象を表すオノマトペ(音を象徴する言葉)が中心。

オノマトペをはじめ、「濃厚な」「甘辛い」など一般的な形容詞は、意味の対象依存性が強いため、共起関係と合わせて学習する必要がある。

Conclusion

集中指導が必要な単語の範囲

「頻度上位400語のうち、中級・上級の単語」

動詞

1)一般的な調理動詞と複合調理動詞。
2)食べる人(お客さん)の反応に関する動詞
3)料理の盛り付け(201~300位)

[参考] 201-300位の動詞
たまる,ゆでる,煮込む,蒸す,効く飽きる,喜ぶ,冷やす,冷める,仕上げる,仕上がる,試す,出来上がる

形容詞と副詞
味を表現するオノマトペや形容詞は、食品との共起に関連して教示されるべき

まとめと展望

一般的な飲食系日本語教材の多くは、中上級の日本語学習者が職場で使う日本語を学ぶというコンセプトのもと、接客やおもてなし、敬語などに重点を置く。
また、初級日本語の教材では、いくつかの課で料理をテーマに食材や調理動詞を扱うことが多かった。

本研究では,従来指導されてきた「⾷材名,料理名,料理カテゴリ」に加えて,「調理の⼿順や計画」「レシピの対象や特徴」が⽐較的⾼い頻度で出現することを⽰し,レシピを正確に読み,調理を遂⾏するためには初級の学習者にも,これらのカテゴリの中上級語彙を指導することの必要性があることを明らかにした.

本研究で提示した方針を実際のカリキュラムや指導計画に落とし込むには、さらなる研究が必要である。また、指導対象や目標が比較的明確であることから、タスク・シラバスやシチュエーション・シラバスに語彙を組み込んでいく予定である。

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