研究
味と香りの美学・知能情報学
味や香りの言語/非言語による表現
味や香りの鑑賞(賞味)の現象学
分野
知能情報学
記号論、認知意味論、意味づけ論、語用論
日本語教育
所属学会
人工知能学会(編集委員、ことば工学研究会 主幹事)
科研費課題
味覚・嗅覚の美的体験を記述する方法論のデザイン:美学新領域の創出
向こう3年くらいの研究

主観的評定のリッチな記録方法:言語・非言語での評定方法を開発、多変量でマッピング
fMRIを用いた多次元的な脳内表象の解析:RSA(表象似度解解析)により1の主観評定との刺激間距離構造を比較
センサ(ガスクロ・液クロ・味覚センサ)による呈味成分のマッピングとの相関分析、
主観的な味質を反映したインテリジェントセンサーの開発
研究の目標
いちごパフェ いちごの皿デザート
握り寿司 海鮮丼


機械で測ったら「同じ味」だが、経験としては異なる
どのように、説明、記述できるか(鑑賞と批評の方法論)
どのように、センサーとして実装できるか
どのように(味、レシピではなく)食べる経験をアーカイブできるか
「味わう」エージェントの工学的実現に向けた、主観的な現象としての味の認知モデルを提案すること
味や香りに関しては人間を超えるレベルのセンサーはあるものの、「味わうAI」は実現されていません。
問題はセンサーの能力不足ではなく、味や香りを説明する思想・哲学の不足にあると思います。
味わうAI実現のためには、まず人間の「味わう」経験とはどのようなものか、
主観的な経験を説明しなければならないと考えています。
味の科学的分析は「食べる」経験の分析にはならない
センサーで「測る」だけではわからない
何かを「味わう」という経験がどういうものかの理論が無いと、「食べる」「味わう」「賞味する」という経験の分析ができない
認知科学、知能情報学で人が「食べる」経験を扱うために、美的経験や鑑賞といった美学の理論を参照しています
たとえば:時間性に注目
いままで食べることの「時間性」の理論は存在していませんでしたが、時間の観点を導入することでより精緻に喫食経験を記述することができます。
上の図のピザも、持ち方の違いは時間性の違いとして記述することができます。
時間性に注目
「食べる」は④つの時間相で構成されている
・無時間(時間が意識されていない)
・線時間(不可逆で一方向)
・円時間(反復し,循環する鑑賞)
・点時間(すべてが同時に同空間に現れる,凝縮した時間)
線形時間:握り寿司
・「寿司は左から食え」
・不可逆で反復のない時間
円環時間:ちらし寿司
・具材の順序が先験的に決まっていない
点時間:巻き寿司
・すべての要素が同時に,同空間に現れる
(無時間)
・ シャリだけ,サーモンだけとか






人類は、まだ味わい方を知らない
「味覚センサーには時間性がない」
「AIは人間の味わいを理解できない」
だけど…
❌ センサーが未発達、分析方法が未発達 (科学レベルの原因)
✅ 時間が大事だと理解していない。味の時間的性質 Temporality を科学者が知らない。
味わうとはどういうことか?に関する思想の不足
技術の不足ではなく、技術や科学を先導する哲学・文化研究の不足
パフェをミキサーでごちゃまぜにするのは、全部の音を一気に鳴らして「分析」するようなもの
それはさすがにダメだと分かる
音楽ならどうするか
→ 拠り所となる音楽の時間理論がある(思想)
→ 何を分析したら良いかが分かる (科学)
→ 具体的な作品の分析
言語表現の研究
味の言語表現の2つのモード
・評価、分析のための表現 (「正解」や共通理解がある表現)
・発見、探索のための表現 (自分にだけわかる、自分の感覚を拡げるための表現)
ワインでおなじみの○○の香り、〇〇の香り…というのは分析のための表現です。
私が注目しているのは主観的な、感覚の発見と探索のための表現で、こちらはまだまだ研究が十分ではありません。
ことばの意味は対象やコミュニティに依存する
透明な
透明な酒質(日本酒)
透明感のあるコーヒー
仮説
文脈における語の意味は共起語から推測できる
分析手法
日本酒の表現をコーパス化する(12万語レベル、Type: 6,080 / TTR 20.07 / Paragraphs (銘柄) 2,388)
共起関係を分析(使用ソフト:KH Coder 3.0)
前処理
テキストクレンジング
複合語の検出、専門用語のタグ化
1銘柄の記述を1段落としてデータ化
KWIC(キーワードコンコーダンス)で日本酒の文脈の共起関係を調べると
「透明な」の共起語(文の中で左右に出てきやすい単語)

普通の辞書には載っていない 透明な の意味
それぞれの言葉には役割がある

非言語的表象:味イメージの描画生成課題の開発
感覚を言語化することが困難とされる味覚について,言語によらない美的体験のアウトプット(美的鑑賞)として,味のイメージを非言語表象で表現する方法を開発しています.
従来,味のイメージを問う心理実験は,強制選択式により行われてきました.
これに対し,本研究では被験者が感じた味わいを描画によって表す生成式の課題を特徴とします.

この研究は科研費課題として進行中ですが,パイロット研究の結果として,日本酒の味に関して下のマトリックスに表されるような,味と形の対応関係が示されました.
結果の詳しい解釈はこの論文に書いています.

フレーバーホイールの再発明
味の表現支援の一つの取組みとして,「フレーバーホイールの再発明」を行っています.
従来のフレーバーホイールは,[果実→シトラス→レモン]といような従来の分類学的かつ階層的な構造でした.

しかし視覚と異なり味覚や嗅覚は階層的な認知をしていないので,
分類学的な構造よりも感覚に寄り添った形式があるはずです.
そこで提案したのは,日本酒の味を言葉で表現した文書に出てくる単語の,
共起関係のネットワークをもとにした新たなフレーバーホイールです.
共起関係が強いということは,似たような性質の香りということですので,
「桃の香りがした」と思ったときにその周りの語を見てみると,さらに適切な表現が見つかるかもしれないという仕組みになっています.
ネットショッピングで見かける,「こんな商品もいかがですか」の仕組みに似ていますね.



日本酒味わい関係図式
「日本酒味わい関係図式」の研究は,動詞に着目した言語化支援の取り組みです.
動詞は動きや様子を表すので,事典のような言葉での説明よりも,視覚的に表現したほうがわかりやすいです.
ということで,味の感覚と言葉を橋渡しする中間言語としてのイメージ図式を提案しました.
「日本酒味わい関係図式」は動詞概念を2次元の抽象スキーマ図にしたものです.
それぞれの図は動詞のグループを図にしたもので,味わいのイメージを図で探すと,ぴったりな動詞が見つかるという仕組みになっています.
詳しくはこの本を見ていただけますと幸いです.
この研究は,味覚言語化の支援方略として媒介的記号を用いる言語工学的手法が評価され,
人工知能学会研究会優秀賞(JSAI Incentive Award)を受賞しました.


オノマトペの意味機能分析
